長年、歯科医師として数多くの「ひどい虫歯」と呼ばれる状態を見てきました。
多くの場合、「歯医者に行くのが怖い」「治療内容が不明すぎて歯医者に行きにくい」と悩んでいる内に虫歯が進行してしまったことが原因です。
そんな人を減らしたいと思い、詳しくまとめました。
虫歯がひどい状態になってきて「歯医者に行かなければいけないのは、わかっているけれど行きたくないなぁ」と
お悩みになっている人も多いのではないでしょうか?
いますぐ、歯医者に行った方がいいのです。。。
実は、ひどい虫歯もある一定ラインまでは「抜歯を回避できる」ことも多くあります。
しかし、歯医者へ行く決断を先送りすることで、抜歯に近づいていく可能性があります。
そこで、今回は「ひどい虫歯の基準と対処法、費用や回数」についてまとめてみました。
この記事を最後まで読んでいただき、気持ちの準備をして歯医者に行きましょう!
目次
1 ひどい虫歯の基準
下記の図は虫歯の進行具合を表しています。
右に行くほど「重度」になり「ひどい虫歯」になっていきます。
虫歯は上図のように、5ステップに別れます。
その中でも、「C3とC4」の虫歯が一般的に「ひどい虫歯」意味します。
2 ひどい虫歯を放置したら、こうなります【画像付き】
下の画像は、虫歯がひどい状況で放置してしまった状態です。
早期治療であるほど、費用も少なく期間も短く治療が終了できる可能性が高くなります!
【20代男性】
性別:男性
主訴:ご飯がしっかりと噛めない
院長コメント:全体的にひどい虫歯が広がっていた患者さんです。虫歯がひどくなるにつれて「歯医者に行ったら怒られるのでは・・・」「他の人に見られるのが恥ずかしい」と感じて、なかなか歯医者に行けなかったとのこと。治療が進むにつれて笑顔が増えたのが印象的です。根管治療や抜歯治療を行い、現在は矯正治療中です。
3 ひどい虫歯の治療法はどんな感じ?痛いのか?
下の図は、ひどい虫歯の「程度別治療法のフローチャート」です。
3-1 ひどい虫歯は、”歯の根が侵食されているかどうか”で変わる
ひどい虫歯というのは「数」ではなく、どれだけ深く細菌に「侵食されているか」が基準となります。歯の根が虫歯に侵食されていたり、ヒビが入ってしまっている場合は抜歯になります。ここで、無理に歯を残すと、骨の中で細菌が繁殖し大きなトラブルにつながることがあります。
膿が溜まっている・膿が出たら根管治療が必要!原因・症状・治療とは
3-2 【根が侵されていない場合】根管治療で歯を残す
この場合、適切な根管治療さえ行うことができれば「抜歯を回避」できます。しっかりと虫歯を除去するだけでなく、「適切な根管治療」が行えるよう「歯の状態を整える」必要があります。
- 根管治療とは?
- 根管治療とは、歯の根の中の神経の治療です。ひどい虫歯の場合は、初めて神経を除去する抜髄治療と呼ばれる種類の根管治療になることがあります。
3-3 【根が侵されている場合】抜歯し、その部位で噛めるよう処置する
歯の根まで虫歯が進んでいたり、歯の根にヒビが入ったり割れたりしている場合は「抜歯」となります。そして、その部分で噛めるよう治療が必要になります。その場合
①インプラント治療
②ブリッジ治療
③入れ歯治療
から治療法を選ぶ必要があります。
①インプラント治療
抜歯した部位にインプラントと呼ばれる人工の歯根を埋め込みます。
周囲の歯を削ったり、残っている歯に負担をかけたくない方に向いています。
保険適応では無いので、自由診療となります。
一般的に一流メーカーのインプラントを使用している場合は30~40万円程度かかることが多いのです。
インプラントの治療についてはこちら→安心して治療を受けるために【インプラントのメリット・デメリット】
②ブリッジ治療
抜歯した部分の前後の歯を削り、被せ物を接着剤で着ける方法です。
保険診療を希望される方、全身疾患でインプラント治療が困難な方に向いています。
しかし、抜歯した本数や部位によってブリッジ治療が不可能な場合もあります。
保険診療では金属で製作した場合は、最少の抜歯本数の場合で3割負担で約16000円程度かかります。
自由診療の場合は、一般的にセラミックを選択した場合は30万円程度の費用が必要となります。
③入れ歯治療
抜歯した部分の前後の歯を少量削り、取り外し式の入れ歯を装着する方法です。
健全な歯をあまり削りたく無い方や、抜歯部位が多くブリッジ治療が困難な方、経済的にインプラント治療が困難な方にも幅広く使用できます。
費用は、ブリッジ同様に抜歯した本数や部位によって、保険診療か自由診療かで大きく変わってきます。
毎日、寝る前に外して自分の歯と同じようにキレイにする必要があります。
3-4 子供のひどい虫歯治療の場合
子供のひどい虫歯は、大人の同様に「歯の根が残せない場合」は抜歯となりますが、抜歯後に行う治療が大人とは全く異なります。乳歯が抜歯となった場合は、周囲の歯も永久歯への生え変わっていくので大人と同じ治療法ができず、永久歯が生えてくるスペースを確保するために、「保隙装置(ほげきそうち)」と言うものお口に入れる必要があります。
代表的な「保隙装置(ほげきそうち)」は6種類あります。
①バンドループ
②クラウンループ
③インレーバー
④ディスタルシュー
⑤リンガルアーチ
⑥小児義歯
①バンドループと②クラウンループは保険適応です。
小児歯科や矯正歯科を標榜している歯科医院ですと対応がスムーズになります。
患者さんからよく聞かれる質問に「ひどい虫歯の治療って痛いですか?」と聞かれることがあります。結論から言うと麻酔が効いているので「治療中は痛くない」です。
しかし、神経を取る治療や、抜歯後に麻酔が切れてくると痛むので、鎮痛剤が必要となります。
ほとんどの場合、鎮痛剤を飲めば生活に支障は出ないでしょう。
4 【治療画像あり】実際のひどい虫歯治療の3症例
この章では、実際のひどい虫歯の治療症例を解説しています。
ご自身に近い状態があれば参考にしてくださいね。
もちろん、ここで紹介している治療症例以外にも様々なパターンがあります。
悩む場合は、まず歯医者に相談してみましょう!
<30代女性>
<40代男性>
<50代男性>
(注:上記の被せ物の費用は、保険治療のチタン冠で計算しています)
5 ひどい虫歯の治療は期間や回数は?
自分に「ひどい虫歯がある」とわかっていても、どれくらいの期間や回数がかかるかが気になりますよね。この章では、代表的な治療期間、回数がどれくらいなのか?
そして、「歯医者が良いに決心がついたので、一気に治療してしまいたい!」と言う希望が叶うのか?について書いています。
5-1 代表的な治療期間と回数は?
実は、ひどい虫歯の本数、噛み合わせで治療期間や回数は千差万別です。
・1本だけがひどい虫歯で抜歯が必要なら抜歯は1回で終わるでしょう。
・根管治療が必要な場合は1回で終わることもあれば、3回程度かかることもあります。
・複数の根管治療、複数の抜歯がある場合は全ての治療は終了するまで1〜2年かかることも珍しくありません。詳しい記事はこちら→根管治療の根治に必要な回数・期間と長期化させないためのポイント・根管治療に必要な期間と治療を繰り返さないためのポイント
・矯正治療も併用すると4年近くになる場合もあります。
5-2 短期集中治療は可能なのか?
結論から言うと、ケースバイケースです。
なぜなら、歯科治療の治療の中には「治癒を待つ」と言うステップが必要なことがあります。
5-2-1 抜歯のとき
抜歯をした後は完全にその部位が治癒してから最終のブリッジや入れ歯を装着します。
しかし、その傷口が治っていくスピードは人によって様々です。
5-2-2 根管治療のとき
根管治療の場合ですと、本来、非常に期間と回数がかかる治療です!
根管治療を得意としている当院などでは、歯科医師やカウンセラーと相談の上
「1回の時間を長く、治療回数を少なく、期間を短く」することも可能な場合があります。
6 ひどい虫歯の治療にかかる費用は?
歯医者に行くときに気になることの一つに「費用」がありますよね!
「自分の虫歯は、ひどい状態だけれど、一体どれだけ費用がかかってしまうのか?」
と不安に思っている方も多いかと思います。
この章では、その「費用」について書いています!
6-1 保険治療で治るのか?
結論から言うと「保険治療のみで治ります!」
この「治る」と言う意味は、「全ての歯が、昔と同じく元どおり」と言う意味ではありません。抜歯をせずに全てが治ると言うことでは、ありません。
歯の根まで虫歯が侵食し、抜歯になった場合は「抜歯によって治った」となります。
しかしながら、抜歯も、抜歯の後に噛めるようにする治療も保険診療で行うことが可能です。
「歯科の保険診療」は、国民が安定して安価な歯科治療を受けられる素晴らしいシステムですが、
そのシステムには、国が決めた非常に細かいルールがあります。
使える機材や材料が指定されています!
よって、「歯を残したい」「歯の神経を残したい」「見た目よくしたい」「しっかりと噛みたい」と言う御希望があれば、どこかで妥協が必要な場合があります。
保険根管治療の詳しい記事はこちら→根管治療!保険か自費かで迷ったときの選択すべとその理由について
6-2代表的な治療費用
結論から言うと「状況によって千差万別」です。
例えば、一本だけのひどい虫歯で根管治療にて治療した場合、根管治療の費用は
3割診療負担の方は、合計で4000円〜7000円程度と考えておけば大きく外れることはないでしょう。
保険治療の被せ物と、自費治療の被せ物で費用が異なるのと同様に、保険治療の再根管治療と自費治療の根管治療の費用は異なります。
費用についての詳しい記事はこちら→根管治療の費用を抑えたい方へ!費用相場と治療をするためのポイント
保険治療の再根管治療の場合(*令和2年4月:保険診療10割負担の場合で計算)
・初診料 2400~2510円(医院の設備体制で変動)
・再診料(2回目以降) 440~510円(医院の設備体制で変動)
・感染根管処置 2300~5960円(歯の根の数で変動)
・根管貼薬 300~540円(歯の根の数で変動)
・根管充填 720~3300円(加圧の有無や、歯の根の数で変動)
・レントゲン料 380~4100円(レントゲンのサイズやデジタル化で変動)
保険診療は全国の歯科医院で同じ費用ですが、治療回数や設備(施設基準)などでやや変動します。
しかしながら、下の奥歯で顕微鏡を使用した場合は追加で1200円程度費用が増加します。歯周病の検査や治療、新しい土台や被せ物の費用は別途かかります。
「自費治療の初めての根管治療」の場合
この場合、歯科医師が患者さんの歯の状態や、患者さんの希望、地域性などを考慮して自由に費用設定しているので、保険診療のように「全国ほぼ同じ」ではありません。
下図は参考までに当院の例となります。
詳しい記事はこちら→精密根管治療とはどんなものなのか?治療内容や費用・期間を徹底解説
7 ひどい虫歯治療に関して、よくある4つのQ &A
放置しすぎて歯医者に行くのがきまずいし、恥ずかしいです。
安心してください。そのような状態の患者様はたくさんいらっしゃいます。ですので、全く恥ずかしがったり、気まずく思ったりする必要はありません!それを、治療するのが歯医者の仕事です!
放置をすると20代でも入れ歯になる!虫歯だらけのリスクとそれを回避する方法
芸能人のレベルを求めなければ、かなりの確率でキレイに治すことが可能です。しかしながら、丁寧な治療と、ある程度の期間が必要になることがあります。
お勧めの記事はこちら→ひどい虫歯でも大丈夫!教えます!安心して通える歯科医院大阪
部位や本数にもよりますが,最近は保険診療の範囲でも「白い歯」を入れられる対象が少しずつ増えてきています。ただ、保険診療では、どうしても銀歯になってしまうこともあります。部位や大きさによっては銀歯を回避できることもありますので、歯医者で相談しましょう!
ひどい虫歯を放置すると脳にばい菌が回るって本当ですか?
本当です。割合は多くはありませんが、虫歯の細菌が脳に進んでいき「脳静脈血栓症(のうじょうみゃくけっせんしょう)」と言う病気を発症することがあります。脳の静脈に血栓を引き起こし脳梗塞などのリスクにつながります。また、口の中は血管が多いので虫歯や歯周病を放置すると、多くの細菌が全身を廻ります。その結果、脳静脈血栓症以外にも様々な病気に繋がっていく可能性があります。
詳しい記事はこちら→根管治療を放置したことで起こる大きな4症状とリスク・対処法
参考文献:齲歯が原因で生じた感染性海綿静脈洞血栓症と Lemierre 症候群の合併例(臨床神経 2015;55:483–489)
8 ひどい虫歯を治療する為の歯医者の選び方【チェックリスト付き】
虫歯がひどい状況では、一般的な歯科治療だけでは質の高い治療が難しいことがあります。
特に、
①質の高い根管治療
②丁寧でダメージの少ない抜歯 の双方が必要です。
以下に、「ひどい虫歯を治療するための歯医者の選び方チェックリスト」を提供します。
1つの目安として活用してみてください。
9 まとめ
ひどい虫歯は、虫歯分類のC3とC4が当てはまる
ひどい虫歯が歯の根まで侵食していれば抜歯になり、その部分を回復するために
インプラント治療、ブリッジ治療、入れ歯治療が必要となる。ひどい虫歯が歯の根まで侵食していなければ根管治療になる可能性が高い
子供の虫歯がひどく抜歯になった場合は、「保隙装置(ほげきそうち)」を装着することがある。
本来抜歯でも、根管治療と他の処置の組み合わせで抜歯を回避することができる事もある
短期集中治療は、歯科医院で相談する事で可能な事もある
「待つ期間」が必要な場合や、治療部位が多い時は、治療が長期間になる
全て保険治療が可能であるが、どこかで妥協が必要となる
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